音源紹介

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「歴史的音源」に収められた金沢蓄音器館のレコード

金沢蓄音器館館長・八日市屋典之


 金沢蓄音器館は、平成13(2001)年7月に開館した。金沢市内で長年レコード店を営んできた故八日市屋浩志(ようかいちや・ひろし=初代館長)が収集してきた蓄音器540台、SPレコード2万枚の「山蓄コレクション」をもとに金沢市の文化施設として設置したものだ。 その後、国内外からの寄贈もあり、収蔵品は平成25年1月現在で蓄音器600台、SP3万枚を超すまでになっている。蓄音器はそのほとんどは音が出る「現役」で、エジソンのろう管式蓄音器からはじまり、明治時代のラッパ型蓄音器、大正期の卓上型、昭和に入ってのポータブル型など国内、海外のメーカー製が常時約150台陳列されている。

 歴史的音源アーカイブ化事業推進にあたり、各レコードメーカーが戦災や火災のため原盤の消失、滅失した音源がたくさんあることが判明した。 当館の収蔵レコードにそれらが含まれているのではと、調査に協力することになった。ここでは、金沢蓄音器館の所蔵品の中から特色あるSPレコードを紹介する。紹介するレコードの一部は国立国会図書館の「歴史的音源」でデジタルでお聴きいただける。

(画像は八日市屋氏の提供による)

図1 金沢蓄音器館の外観(金沢市尾張町2-11-21) 図1 金沢蓄音器館の外観(金沢市尾張町2-11-21)

図2 館内展示のようす(左はエジソンろう管式縦振動蓄音器 右はエジソン・ダイアモンド・ディスク L-35型) 図2 館内展示のようす(左はエジソンろう管式縦振動蓄音器 右はエジソン・ダイアモンド・ディスク L-35型)

世相を映すレコード

1 猫イラズレコード

図3 猫イラズ本舗の「国益演説」のSPレコード 図3 猫イラズ本舗の「国益演説」のSPレコード
「帝国成毛会社」制作、[発売年不明]、商品番号(レコード番号)10. (特許申請の時期から大正初年に作られたSPと推測される。)

 大正初年に発売になった「猫イラズレコード」には『国益演説』として猫イラズの製薬会社の主人が解説している。「国家最大の敵は鼠。年間8千万円の損害だ。経済ばかりでなく衛生上もよろしくない。ご家庭の常備薬として鼠撲滅にご利用を乞う」と録音している。レコードを宣伝に用いた珍しい例だ。

(申し訳ありません。音源はございません。)

2 慶應義塾々歌

図4 明治37年制定された慶應義塾の前塾歌 図4 明治37年制定された慶應義塾の前塾歌
コロムビア、昭和5(1930)年6月発売、商品番号(レコード番号)25884.

 『慶應義塾々歌』は福沢諭吉の死から3年後の明治37(1904)年に慶応義塾の校歌として作られた。現在歌われているものと全く違う曲だ。漢文の素養がないと意味がわかりにくいが、鉄道唱歌や勇壮な軍歌の曲調ともいえる旋律だ。日本に西洋音楽が導入された草創期の雰囲気が伝わってくる。「歴史的音源」では、右に掲げる盤とは異なるが、昭和3(1928)年にビクターから発売された同校歌をお聴きいただける。

→『慶應義塾々歌 (合唱)』を聴く

3 石川県民の歌

図5 戦後制定された「石川県民の歌」(歌・菅原都々子、村澤可夫) 図5 戦後制定された「石川県民の歌」(歌・菅原都々子、村澤可夫)
テイチク、[昭和21-22(1946-47)年頃製作]、商品番号(レコード番号)20005(県が製作費を出した自家盤).

 戦後の再建にレコードは随分と利用された。会社や組合、団体の一致団結に資するために多くの曲が作られた。各県でも同様だ。石川県では、「石川県民の歌」が作られた。人々の心を奮い立たせるような歌詞だ。「食糧増産やろうじゃないか よしきた再建だ、闇の商売やめようじゃないか、煙はけと 新台ドシドシ送ろうじゃないか 我等の意気を上げよじゃないか さあ、再建だ」、国土復興の応援歌になっている。「石川県民の歌」は、「歴史的音源」で平成25年度中に提供される。

→『石川県民の歌』を聴く

4 『支那の夜』と『チャイナ・ナイト』

 『支那の夜』は昭和13(1938)年11月に発売された。戦後、米軍がこの曲を好み『チャイナ・ナイト』としてアメリカ映画『ゼロ号作戦』の主題歌に取り上げられた。ようやく著作権が作者に戻ったのは昭和36年のことだ。

→『支那の夜』を聴く

→『チャイナ・ナイト』を聴く

図7 『支那の夜』は「チャイナ・ナイト」と呼ばれアメリカで人気を博した。 図7 『支那の夜』は「チャイナ・ナイト」と呼ばれアメリカで人気を博した。
コロムビア、昭和23(1948)年発売、商品番号(レコード番号)A430. 「歴史的音源」では、商品番号A430は未収だが、商品番号A1229(コロムビア, 昭和26(1951)年発売)の盤のデジタル化音源を収録している。

図6 『支那の夜』(作詞・西条八十、作曲・竹岡信幸、歌・渡辺はま子) 図6 『支那の夜』(作詞・西条八十、作曲・竹岡信幸、歌・渡辺はま子)
コロムビア、昭和13(1938)年11月発売、商品番号(レコード番号)30051.

人となりを語るレコード

5 乃木将軍

図8 『乃木将軍の肉声と其憶出』のレーベル 図8 『乃木将軍の肉声と其憶出』のレーベル
ビクター、昭和6(1931)年発売、商品番号(レコード番号)51571.

 乃木希典将軍の実声レコードがある。明治42(1909)年10月25日、偕行社で録音されたものである。この盤はビクターから発売されているが、元は私的に録音されたものだと盤の中で小笠原長生海軍中将が語っている。「わたくしは乃木希典であります」という一声だけだがその凛とした声に接すると背筋がピンとなる。ライブ感覚は本で読むのと全く違うインパクトを与えるのだ。

(申し訳ありません。音源はございません。)

6 大隈重信

図9 大隈重信『憲政に於ける輿論の勢力(六)』のレーベル 図9 大隈重信『憲政に於ける輿論の勢力(六)』のレーベル
ニッポノホン、大正4(1915)年3月録音、商品番号(レコード番号)515. この盤は、大隈没後の1922 年に再発売された。

 早稲田大学創立者で政治家だった大隈重信も実声が残されている。『憲政における輿論の勢力』と題がついている。大正4(1915 )年3月2日に早稲田の大隈邸で録音された。「帝国議会は解散されました」で始まる演説は実に力強く、政治の大局を語っている。「~であるんであります」「~ならんと思いますんである」など大隈の個性的なキャラクターが直に伝わってくる。

→『憲政に於ける世論の勢力』を聴く

7 西條八十

図10 西条八十『母の部屋』のレーベル 図10 西条八十『母の部屋』のレーベル
コロムビア、昭和11(1936)年5月、商品番号(レコード番号)28854.

 昭和16年、国文学の鑑賞と朗読研究として作家自身の朗読レコードが発売された。北原白秋、佐藤春夫、室生犀星など多くの歌人たちが録音した。その先駆けになったのは、昭和11年に録音された西条八十の「母の部屋」である。「おかあさん」と何度も呼びかけている。年老いた母への想いが伝わってくる。自分の横にその人がいるように思える。身近に感じられるのだ。再現装置のレコードのお陰だ。

→『母の部屋』を聴く

故郷が聞こえるレコード

8 金沢市二水高校音楽部

図11 金沢市二水高校音楽部優勝歌『醒めよや風琴』のレーベル 図11 金沢市二水高校音楽部優勝歌『醒めよや風琴』のレーベル
コロムビア、昭和29(1954)年、商品番号(レコード番号)AK358. 

 小生の母校である石川県立金沢二水高校音楽部が昭和28年、NHK全国唱歌ラジオコンクール高校第1位を取った記念の曲だ。部員、生徒、教師は言うには及ばず県民あげてその栄誉をたたえた。日本コロムビアが全国発売した記念品である。

(申し訳ありません。音源はございません。)

9 山中節

図12「忘れしゃんすな~」で始まる米八の『山中節』のレーベル 図12「忘れしゃんすな~」で始まる米八の『山中節』のレーベル
ポリドール、[発売年不明]、商品番号(レコード番号)7616.

 「山中節」は石川県を代表する民謡の1つである。金沢蓄音器館には「山中節」のSPレコードが30種類ほど収蔵されているが、出だしの歌詞が、盤によって異なる。大正期の録音の出だしはいろいろだが、昭和期のものは「忘れしゃんすな~」が多い。何処から始めどこで終わってもよいという定型がない唄では、新しい電気吹き込みに適さなかったため、地元の芸妓「米八(よねはち)」(本名:安実清子(あんじつせいこ)が今の形に整えたという。「歴史的音源」では、「薬師山から~」という唄い始めの音丸と「忘れしゃんすな~」で始まる葭町勝太郎の盤を聴くことができるほか、平成25年中に、右にレーベルを掲げる米八の盤など、他の唄い出しの盤も聴くことができるようになる。

→音丸の『山中節』を聴く

→葭町勝太郎の『山中節』を聴く

おわりに

 蓄音器で聴くSPレコードの音色は「タイムマシン」だ。かつて蓄音器でレコードを聴いたことがある人は、すっとその時代にタイムスリップできる。一方、若い人にとって蓄音器で聴くレコードの音色は今まで聞いたことのない「未知との遭遇」である。しかし、現在残っているSPレコードには、かつてよく聴かれたものほど擦り切れて、はっきりと聞き取れない音や傷があるものも多い。保存状態がよくなく、盤にひびやすじが入ったものもあり、今保存しておかなければ確実に消えてしまうだろう音もたくさんある。金沢蓄音器館は、今回のアーカイブ事業に約7000曲を無償提供した。今回見つけられなかった音は今後、全国のSPレコード所蔵している施設と協力連携をして陽の眼をあてて行くことが期待される。

 金沢蓄音器館の活動、蓄音器やSPレコードについての話は「金沢蓄音器館長ブログ」をご覧いただければありがたい。

  http://www.kanazawa-museum.jp/chikuonki/index.htm

図13 金沢蓄音器館でのアーカイブ化の模様 図13 日本コロムビア・渡辺義之氏による金沢蓄音器館でのアーカイブ化の模様

参考資料:

  • 長田暁二・千藤幸蔵 編著 「日本民謡事典」 全音楽譜出版社
  • 倉田喜弘著 「日本レコード文化史」  東京書籍
  • 倉田喜弘著 「日本レコード文化史」  岩波書店
  • 「日蓄30年誌」           ㈱日本蓄音器商会
  • 「コロムビア50年誌」        日本コロムビア㈱
  • 「二水50年」            石川県立金沢二水高校

(金沢蓄音器館館長・八日市屋 典之・ようかいちや のりゆき)

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